スポーツでの脳損傷について

少し前の話ですが、フィギュアスケート男子の羽生結弦選手が試合前の練習で別の選手と接触し、頭を打って転倒。その直後に試合を強行したということがありましたね。彼の試合出場は勇気ある行動だったのか、それとも無謀な振る舞いだったのかの議論が同時に話題になったりもしました。正直、医学的見地からすれば迷うことなく出場は 「NO!」 ですし、やはり脳のダメージというものを甘くみてはいけません。現在ではサッカーやラグビーなどでも競技の統括団体が率先して脳損傷の発生予防と被害の最小限化に取り組んでいます。

脳とは、例えるならば頭蓋骨という鍋の中で水にプカプカ浮かんでいる豆腐のようなものです。だから外部から揺さぶられたり激しい衝撃を与えられれば、その脆さゆえに思ってる以上の損傷が、脳の内部や脳の外にある架橋静脈という血管で起こってしまいます。そうした繊細な箇所であり、ひとたび損傷すれば命が失われたり重い後遺症を残す事態に直結するものなので、細心の注意を払わなければならないのですね。また、セカンドインパクト症候群といって1回目の軽い脳震盪後、間を置かないで2回目の頭部外傷を負った場合にも致命的な脳出血等を起こすという怖い症状もあります。スポーツを行う上でこうした知識が少しでも指導者や管理者の方々にあれば、以前のようにラグビーで気を失った選手にヤカンで水を掛けて復帰させたり、柔道で投げられて脳震盪を起こした選手をすぐに練習に復帰させ、その後に重篤な脳障害を起こしてしまうような事例は無くなることでしょう。あの羽生クンの一件もこうした観点からすればいかに危ないものだったか…ということなのですね(結果的に大丈夫だったとしても、あくまでそれは結果論なのです)。

私もこれまで参加した研修会で何度も脳損傷に関する講義は受講しています。もちろん脳損傷自体は私たち柔道整復師が直接診ることが出来ないケガの部類ですが、一般の頚部捻挫等との鑑別をしっかりと付けなければなりませんし、院内を離れてスポーツの現場に携わる機会も多々ありますので全く無関係ではありません。出来れば今後は医療従事者だけでなく、コンタクトスポーツを行う選手の指導者、競技関係者の方々が1人でも多くこうした脳損傷に関する認識を深め、より広い範囲で情報を共有出来れば良いなぁと思います。そのスポーツに命を懸けて頑張る選手もいる一方で、周囲がその選手の安全を最大限に守ってあげなければならないのですから…。

院長:本多