VOL.5 肘・手・指関節周辺のスポーツ外傷・障害
肘や手指の関節もそれぞれに複雑な運動機能と構造をもつ器官で、スポーツばかりでなく日常生活においても重要な役割を果たします。スポーツ中では繰り返し動作や突発的なアクシデントにより、様々な外傷や障害が発生します。
※写真で紹介したテーピング方法は、あくまでもスポーツや仕事への復帰時の再発予防を目的としたもので、様々な方法の中からの一例です。
● 野球肘 ● テニス肘 ● 三角繊維軟骨複合体損傷(TFCC損傷) ● 舟状骨骨折 ● 突き指 ● マレットフィンガー(槌指) ● ベネット骨折(第一中手骨の脱臼骨折) |
野球肘
野球の投球フォームによって起こる肘の痛みで、主に成長期の未発達で抵抗力のない肘に過度の力が繰り返しかかることにより発生します。内側型、外側型、後方型に分類され、一般的にはまず内側が痛み始め、悪化すると外側にも痛みが発生します。
内側型では前腕部の屈筋群(肘や手を曲げる筋肉)の過緊張や炎症(内側上顆炎)、投球時の肘内側の痛み、圧痛が主症状になります。この時期にきちんと治せればまだいいのですが、無理を重ねた結果、外側型に発展すると離断性骨軟骨炎や関節遊離体(関節ネズミ)といった軟骨が剥がれてしまう症状を併発することもあります。
この障害への対処で最も重要なのは予防です。日々のコンディションをチェックし、投球フォームが崩れていないかなどを適切に確認していきます。また、投球前の十分なウォームアップや投球後のアイシング、ストレッチ、マッサージも普段から欠かさず行うことが理想です。
発症後は初期であれば投球の制限(球数の制限、全力投球の禁止)とテーピングやアイシング、マッサージなどで痛みが軽減しますが、炎症が強い場合やスポーツ以外の日常生活にも痛みが及ぶ場合は投球を全面的に禁止し、安静を保ちます。この間、物理療法やマッサージなども継続して行います。炎症の軽減後は筋トレ、ストレッチを十分に行い、段階的に投球内容をアップさせます。関節遊離体の存在で、引っかかり(ロッキング)や炎症症状が頻繁に繰り返される場合は手術の適応になることもあります。
肘の内側部と前腕屈筋群への 伸縮テーピングの一例 |
テニス肘(上腕骨外側上顆炎)
テニスやバドミントンのプレー中にバックハンドを打つ時には、手首をそらす(手の甲側に曲げる)筋肉が主に働きます。この筋肉は肘の外側に始まり、手の甲の骨に付きます。ここに繰り返しの負担がかかると肘の外側部に炎症が発生し(外側上顆炎)、強い痛みになっていきます。
フォアハンド動作の繰り返しでもテニス肘は発生しますが、この場合は強いグリップで手首を手のひら側に曲げる動作を行うため、その筋肉が始まる肘の内側部に痛みが出てくるようになります。
軽い痛みが出始めた直後ならば運動後のRICE処置を基本に、充分なストレッチ・マッサージ、及びテーピングなどを行ない、使い方を制限したりフォームを修正することでまず様子を窺います。強い痛みに対しては、運動の一時中止や手首の動きを制限する固定方法も必要になってきます。復帰する際には、ストレッチや筋力強化で1カ所へ集中する負担を和らげながら行いましょう。伸縮テーピングやエルボーバンドの装着も有効ですし、ガットの張り具合やコートの質を変えてみるのも一案です。
テニス肘へのテーピングの一例 伸縮テープとアンダーラップを使用します。 |
三角繊維軟骨複合体損傷(TFCC損傷)
手首の捻挫のひとつです。三角繊維軟骨複合体(TFCC)とは聞き慣れない名称でしょうが、手の関節の小指側(尺側)に存在する靱帯と繊維軟骨の複合体部です。
転んで手を衝いたり、グリップ動作で捻転するなどの外傷か、または加齢によりこの部分が損傷すると圧痛や手関節の小指側への屈曲及び回旋運動時の痛みが強くなります。また、握力の低下をきたすこともあります。手首の強い痛みが外側のくるぶし周りに集中している場合、この部位の損傷である可能性は大きいと思われます。
受傷後は副子を用いた包帯固定などで安静を保ちます。この時期は継続的に負担のかかるスポーツは避けた方が望ましいでしょう。
痛みが緩和した時点でスポーツを開始すると再発してしまうこともあるので、経過を注意深く観察していくことが大切です。
三角繊維軟骨複合体(TFCC)は ココにあります。 (赤い部分) |
舟状骨骨折
舟状骨とは手首に数ある細かな骨(手根骨)の1つです。ここの骨折は手根骨の中で最も発生頻度が高く、転倒などで手首を手の甲側に曲げられた(背屈された)際に起こりやすいとされています。
一般的に捻挫と間違われ易く、慎重な診断が必要になります。手関節の親指側の腫れや痛み、運動制限が現れ、解剖学的“カギタバコ入れ部”(→親指を外側に反らすと手首に出てくる2本のスジの間)に疼痛や腫れがみられるのも特徴です。
応急処置的には腫れが強ければアイシングを充分に行い、親指を伸ばした肢位で副子固定を施します。なるべく早めに専門医にてX線等で正確な診断を受け、一定期間の安静固定の後にリハビリへと進んでいきます。治癒するまでには長期を要しますが、これは舟状骨そのものが血流に乏しい骨である故に回復力が緩慢になってしまう為です。
(いわゆる)突き指
バレーボールやバスケットボール、野球など球技においての発生頻度が高いケガです。ひとくちに突き指と言っても骨折、脱臼、捻挫など症状は様々ですが、その多くは腱や関節の側副靱帯といった軟部組織を損傷する捻挫です。
軽めの突き指であっても屈曲痛や運動制限等の後遺症を残さないためには、速やかな処置が必要です。受傷後はRICE処置と固定を行いますが、ケガの大きさや痛みの出る方向から判断して固定方法を決めていきます。アルフェンスという関節の角度が調整できる金属製の副子と包帯での固定も有効です。曲げ伸ばしの際の痛みや運動制限が残っている間は球技は避けた方が望ましいでしょう。
また、「突き指は引っ張ればいい」と思っている方も多いかも知れませんが、大変な誤解です。どうしても引っ張って(整復して)治すものは脱臼や転位のある骨折の場合のみで、それも整形外科や接骨院などの医療機関でそれが必要と判断した症状だけです。自己判断は避けてください。
側副靱帯を保護するための テーピングの一例 |
屈筋腱を保護するための テーピングの一例 |
マレットフィンガー(槌指)
これも突き指の中に含まれますが発生頻度の高い症状です。指の一番先端の関節(DIP関節)がボールとの接触などで過剰に曲げられてしまった際に、指を伸展させる側の腱の部分が断列したり、腱の付着部が骨と共に剥がれたり(剥離骨折)します。重度では脱臼骨折となってしまうものもあります。
他のケガ同様、応急処置はアイシングなどのRICE処置を充分に行います。治療に関しては腱の完全断裂の場合や剥離骨折を伴うものは手術療法が一番望ましく、後遺症が残りません。
保存療法を選択した場合の固定方法は、DIP関節を過伸展位に(反らすように)して金属副子等を用いて行います。6~8週間の安静固定の後、少しずつ指の曲げ伸ばし運動を開始します。スポーツ復帰の際はテーピングで保護した状態で慎重に始めるのが望ましいでしょう。
ベネット骨折(第一中手骨の脱臼骨折)
ボクシングや空手など格闘技に多い損傷です。握り拳でものを叩いたりしたときに発生します。親指(第1指)の中手骨(手根骨と指骨の中間に位置する骨)の根元(基部)が骨折し、折れた先の部分(末梢部)が脱臼した状態になります。
受傷直後は腫れや安静時痛、運動痛が強く現れ、変形もみられます。応急処置では他のケガ同様、安静に努め、よくアイシングも行います。その後早急に医療機関で整復、固定処置を施し経過を観察します。
脱臼と骨折の合併症状ですので、経過が順調でも3ヶ月程の治療期間を要します。スポーツ復帰の際はテーピングやブレスで保護をし、関節の可動域や握力等を確認しながら徐々に動かしていきます。