VOL.6 腰の痛みについて

腰の痛みについて分類や対処法を簡単にまとめてみました。スポーツ選手のみならず、誰もが1度は腰の痛みでご苦労されたご経験があるのではないでしょうか。日常生活の動作や姿勢、加齢による骨格の変化など痛みの原因は様々です。ぜひ参考にされてみて下さい。

● 腰椎捻挫(急性腰痛・いわゆるギックリ腰)
● 筋・筋膜性腰痛
● 腰椎椎間板ヘルニア
● 腰椎分離症・すべり症
● 脊柱管狭窄症
● 腰椎圧迫骨折
● グロイン・ペイン症候群(鼠径部痛症候群)


腰椎捻挫(急性腰痛・いわゆるギックリ腰)

それまでなんの自覚症状も無かったのに、ふとした瞬間に腰が激痛に襲われます。中腰で物を持とうとした時、洗顔しようと前かがみになった時、イスから立とうとした時、くしゃみをした瞬間・・・きっかけは様々です。

元々硬かった腰周辺の筋肉が仕事や家事、スポーツなどで毎日同じ姿勢や使い方をする事で更に疲労し、過剰な緊張状態になることで症状が発生しやすい原因が作られてゆきます。また、寒い時期での体の冷えなどがこうした原因に加わることもあります。大半の症状は筋肉の状態の変化に由来するものですが、中には椎間板ヘルニアやその他骨格に原因となる痛みもあるので正しい見極めが必要です。

対処法はまず最初は1にも2にも安静。一番楽な姿勢で横になることです。炎症による腰の熱感があれば最初の1~2日間はアイシングしても良いでしょう。当院の治療では痛みを伴わないように筋肉の緊張を緩和し、サラシ包帯で固定します。当初の痛みが少し楽になった時点でストレッチその他運動療法を加え、柔軟性と筋力を回復させます。ギックリ腰は人によって1年おきなど周期的に再発してしまうこともあります。これを予防するためにはまず目の前の症状をきっちりと完治させることが大切です。

 

筋・筋膜性腰痛

腰痛といっても全てがヘルニアなど骨格そのものに原因があるものばかりではありません。この筋・筋膜性腰痛は様々な原因により腰を支える筋肉や筋膜などの軟部組織が局所的な負担の積み重ねで磨耗し、痛みを発生してしまうものです。同じ外力や緊張状態が掛かり続けることで筋繊維が徐々に傷つき、いわゆる【捻挫】のような状態になってゆきます。

人間の腰は、2本足で動くために体の中心として脚を使う時も上体を使う時も必ず動きの軸になり、その動作ごとなんらかの負担が掛かってしまいます。その人その人の体格や体質に見合った体の使い方がなされていないと次第に筋肉が疲弊し、こうした痛みが発生しやすくなります。痛みの出方は人によって曲げ伸ばしの際に痛くなるものから座っていたり寝ている時に痛くなるもの、その他特定の時間や動作・環境において痛くなるものまで様々です。そこから痛みの出る原因を探り、改善を図ってゆきます。

治療では低周波やマイクロウェーブなどの機器を使用した理学療法や、筋肉の緊張を緩和させるマッサージ、ストレッチを施します。また、背筋や腹筋、股関節、下肢のバランスの良し悪しから姿勢全体を診た上で、その人に合った動作指導等を行なってゆきます。

 

椎間板ヘルニア

椎間板とは背骨の1つ1つの骨同士の間に挟まっている軟骨で、衝撃を吸収するためのクッションのような役割りがあります。しかし長年に亘る体の酷使や姿勢の悪さ、加齢などから元々あった椎間板の弾力性が失われて硬くなってゆきます。その際に椎間板の中心にある【髄核】という組織が上下からの圧迫に耐えられなくなって外へ飛び出し、神経根に当たってしまうものが【椎間板ヘルニア】です。

椎間板ヘルニア

この症状はでは腰の痛みと共に、圧迫された神経根から先の脚の部分がシビレたり、ビリッとした流れるような痛みが出る【坐骨神経痛】を発症するのが特徴です。発生年齢は幅広く、早ければ中学生くらいの年代から始まることもあります。通常は触診や問診と幾つかのテストにて判別できますが、詳細な状態を知るためにはX線やMRI、その他の精密検査が必要です。

治療ではまず保存療法、温熱や電療などの理学療法、そしてヘルニアの主症状と共に硬くなって動きの悪くなっている周辺の筋肉の緊張を緩和するためにマッサージやストレッチを行ないます(※但し、症状の強さによっては最初の段階では出来ないこともあります)。併せてコルセットやバンドの装着にて日常動作で負担の掛からない状態を整えてゆきます。

症状が改善されたらウォーキングから始める軽い運動、腹筋や背筋の強化、柔軟性の維持などを治療と一緒に行なえるのが理想です。回復の時期には個人差もあり、時にじっくりと療養する心構えも大切です。また、あまりに長期に日常生活動作に大きな支障をきたす症状になってしまう場合には外科的な手術が行なわれることもあります。

 

腰椎分離症・すべり症

【腰椎分離症】

数ある腰痛症の中でも特に【スポーツ障害】としての側面が強い症例です。腰椎の一部が繰り返し加えられる外力によって疲労骨折を起こし、離れてしまう状態になります。

【腰椎分離・すべり症】

また、分離した部分の骨(椎骨)の安定性が失われ、上部の椎骨が前方にすべり出してしまうのが、分離・すべり症です。分離症を伴わない【すべり症】は椎間板の変性などによって発生します。

腰椎分離症・すべり症 腰椎分離症・すべり症
(左図) 腰椎分離・すべり症 (右図) 腰椎分離症

分離症の痛み方には個人差があり、激しい痛みで日常生活に支障をきたすものから、軽い痛みまで様々です。初期に適切な安静・療養期間が作られれば骨は癒合しますが、痛みを抱えながら長期に亘ってスポーツ等を続けていくと慢性に移行してゆく場合もあります。治療方法は先の項目で挙げた理学療法等を主体にして続けてゆきます。

 

脊柱管狭窄症

主に中高年以降の年代の方に発生しやすい症例です。椎骨の後方には【脊柱管】という神経を通す穴が開いていますが、その穴の大きさが変形することによって狭くなり、中を通る神経が圧迫されて腰の痛みと共に強い坐骨神経痛を起してゆきます。特徴的な症状として、歩行を続けると痛みや脚のシビレが悪化し、立ち止まると少し和らいでまた歩ける・・・という状態を繰り返します。症状があまり進行し過ぎると排尿障害が起こることもあり、注意が必要です。

脊柱管狭窄症


腰椎圧迫骨折

主に高齢者の方に多い症例です。加齢によってもろくなった骨が尻もち等の転倒によって強い衝撃を受け、上下から瞬間的に圧迫されて潰れた形で骨折します。強い動作痛とそれに伴う腰~背部の運動制限が顕著にみられます。しばらくは横になって安静を保ち、動けるようにまで回復した後に筋肉や骨を弱らせないための軽い運動を始めてゆきます。場合によっては入院措置がとられることもあります。

 

グロイン・ペイン症候群(鼠径部痛症候群)

股関節周囲の症状ですが、この頁でご紹介いたします。

グロイン・ペイン症候群(鼠径部痛症候群)とは、股関節・骨盤・恥骨部・鼠径部(腿の前側の付け根部分)などにおけるスポーツ活動時の痛み・障害の総称で、特に若い年代のサッカー選手に多くみられる症例です。キック動作やランニング・ダッシュ、体の捻転運動などによる過剰な負荷が股関節周囲の同じ箇所に中・長期的に積み重なり、体幹から下肢の筋肉・関節の可動性や安定性、協調性が失われた結果、発症すると考えられています。

治療ではまず股関節や骨盤周囲、大腿部の筋肉等の可動域や柔軟性をチェックいたします。筋肉の過剰な緊張がある箇所や関節の可動域の狭い部分は入念なマッサージ・ストレッチにて改善を図ります。ある程度痛みが緩和してきたら筋力回復のエクササイズを行なって頂き、再発予防に努めてゆきます。

また、痛めた時のスポーツとの関わり方としては、常に一定の痛みが発症している状況であれば、運動量・運動方法を調整する必要があります。痛みを我慢して使い続けてゆくうちに走行フォームなどが崩れてしまったり、かばって別の箇所が二次的に痛くなったりすることがあるためです。また、安静にして一時的に痛みが引くけれど、再開してまた痛みだす・・・を繰り返してしまうこともあるので、運動再開時はより入念なウォームアップ、クールダウン作業を行なうことも大切です。痛みが長引くこともある症状なので、慎重に治してゆくことを心掛けましょう。

グロイン・ペイン症候群(鼠径部痛症候群)

赤い部分がグロイン・ペイン症候群の発症しやすい主な部位