VOL.3 膝関節周辺のスポーツ外傷・障害

膝関節周辺の主なスポーツ外傷・障害のご紹介です。人間が2本足で生活する上での基盤となる部分でもあり、ほとんどのスポーツ動作においても重要な動きを要求される関節だけに負担も多く、ケガや痛みを経験した人も多いのではないでしょうか。

どの損傷も充分な治療と復帰までのリハビリ期間を設けることが大切で、中途半端な回復での競技復帰は痛みの再発の恐れも多く、注意が必要です。

● 内側々副靱帯損傷
● 半月板損傷
● 前十字靱帯損傷
● オスグッド・シュラッター病
● ジャンパー膝(膝蓋靱帯炎)
● ランナー膝(腸脛靱帯炎)
● 鵞足《がそく》炎
● 大腿部、下腿部の肉ばなれ

内側々副靱帯損傷

膝を軽く曲げた状態で、膝から下の部分(下腿部)が外側にねじれてしまう(外反)ような体制になると、膝の内側の靱帯に緊張がかかり損傷を起こしていきます。膝は外側にも側副靭帯がありますが、受傷頻度は内側の方が圧倒的に多いのも特徴です。

損傷の程度は軽く靱帯を伸ばしたものから部分断列や完全断列といった重症のものまであり、また、軟骨(半月板)や別の靱帯(前十字靱帯など)の損傷を合併していることもあります。

主な症状は膝の内側部の運動痛と動作時の不安定感などですが、 中等度以上の症状では曲げ伸ばしの制限が生じ、荷重痛も強いので歩行は困難になります。

受傷直後のRICE処置は万全に行い、軽度の症状でも包帯などで固定し、安静を保ちます。 固定期間を経た後に正しいリハビリメニューの元、社会復帰及び競技復帰を目指していきます。 完全断列のような重度のものは、手術により靱帯を縫合しなければならない場合もあります。

 

内側々副靱帯損傷 内側側副靭帯はココにあります。
赤い部分)
内側々副靱帯損傷
 
膝が内側へねじれ、膝から下が外側へねじれる体勢(ニーイン・トゥーアウト)になると内側側副靭帯を損傷しやすくなります。

半月板損傷

半月板とは膝の内部にある軟骨組織で、荷重の分散や衝撃を吸収する役割を持ちます。運動中のアクシデントでこの部分に異常なねじれやたわみが加わると損傷が起こります。

半月板は内側と外側の二つに分かれていますが、内側の半月板の方が周辺の関節包 (関節をつつむ袋状の軟部組織)と頑丈に付着し、自由に動ける度合いが少ないため 損傷しやすくなっています。

症状は損傷の程度により多種多様ですが、部分的に断列した半月板が骨の間に挟まった状態に なると“ロッキング”と言って膝が完全に伸びきらなくなったり、引っかかったりするようになります。

ごく軽い症状であれば包帯固定や理学療法で治りますが、 血管が入り込まない部分の重度な損傷では半月板の切除や縫合手術が行われることがあります。 いずれにしても日常生活動作の回復や競技への復帰には慎重で綿密なリハビリが必要になります。
 

前十字靭帯損傷

前十字靱帯は膝関節内部にあり、膝から下の部分の骨(脛骨)が膝より前方に出ないように抑制する働きを持っています。半月板や側副靱帯損傷と同様、スポーツ中に膝への異常な ねじりが加わった時に損傷されていきます。

受傷後は腫れたり内出血を起こし、強く痛みます。また、前方引き出し現象といい、膝から下(脛骨の部分)が膝より前に出てしまう異常な可動域になります。一旦損傷されると自然治癒力が低い箇所のため不安定な状態が続き、さらにこの状態でスポーツを続けると膝がガクッとする“膝くずれ”を起こし、損傷が拡大することもあります。

スポーツ選手の重度な損傷などには手術による再建術の方法がとられることもあります。保存療法では理学療法に加え、ももの前側の筋肉(大腿四頭筋)や裏側の筋肉(ハムストリングス)の強化訓練も行い、スポーツ活動時にはテーピングやニーブレスなどで厳重に保護します。いずれも長期に渡るので根気強く続けなければなりません。

前十字靱帯損傷
 

前十字靭帯損傷時のテーピングの一例

脛骨(スネの骨)が膝より前方へ引き出されるのを防ぐため、ややハードタイプのテーピングで保護します。

オスグッド・シュラッター病

“病”とついていますが病気ではありません。伸び盛りの時期に骨(大腿骨)の成長に筋肉(大腿四頭筋)の成長が追いつかないと、常に膝下の腱の付着部が引っ張られている状態になってきます。さらにスポーツ活動などで膝に強力な力が加わり続けると、未発達な腱や軟骨が炎症を起こし痛みを生じてきます。症状が進むと骨が出たように盛り上がってきます。

よほど重い痛みでなければ運動を中止する必要はありません(運動量や内容の調整は必要)。が、大腿四頭筋は十分にストレッチやマッサージでほぐしておき、練習後のアイシングも必要です。負担を軽くするための伸縮テーピングやオスグッド用のバンドの装着も効果的です。

又、見逃されがちですが、筋肉や腱が発育・成長していくために必要な栄養(タンパク質やビタミンC、鉄分など)の摂取が足りていない場合にこうした症状は起こりやすくなります。それぞれの年代や運動量に見合った適正な量と栄養バランスでの食事を心がけましょう。

オスグッド・シュラッター病
 

小6、男子(野球チーム所属)のオスグッド症

ジャンパー膝(膝蓋靱帯炎)

痛む場所はオスグッド症と同じ膝下の膝蓋靱帯部ですが、オスグッド症よりも若干お皿の骨寄りの部分(膝蓋靱帯の中央部付近)が痛くなるのが特徴です。又、年代もオスグッド症より少し高い、高校生~大学生くらいが中心となります。

スポーツ中のダッシュやジャンプの着地の繰り返しで、ももの前側の大腿四頭筋が緊張して靱帯部の負担が増していき炎症を起こしたり、わずかに靱帯部の繊維が断列したりするのが痛みの原因です。

痛みが起こったら運動は出来るだけ最小限とし、治療に専念します。急性期ではアイシングや包帯固定で炎症を抑えていきます。発症から時間が経過した状態であれば、温めたり、大腿四頭筋部のマッサージやストレッチを行います。競技に復帰する際も周辺の筋力強化や柔軟性を維持していく必要があります。

ジャンパー膝(膝蓋靱帯炎) ジャンパー膝(膝蓋靱帯炎)
ジャンパー膝の発生箇所
赤い部分です)

 
ジャンパー膝へのテーピングの一例
 

ランナー膝(腸脛靱帯炎)

長距離のランナーに多い症状です。腸脛(ちょうけい)靱帯とは膝の外側と骨盤を結ぶ幅広く、分厚いスジです(骨盤のところで他の筋肉と合流している)。

フォームが崩れたまま長時間のランニングを続けていたりすると、この靱帯の一部が大腿骨の膨らみの部分(外顆部)と摩擦を起こし、炎症を生じます。膝を屈伸させる際が一番強く痛み、ひどくなると屈伸運動ができなくなることもあります。O脚気味の形状を持つランナーにやや多く見られるのも特徴の1つです。

発症後は、まず走る距離を短縮したり間隔を開けて患部が摩擦を起こす回数を減らすことが大切です。その上で痛みの程度や状況に応じて、アイシング或いは温熱、マッサージ、ストレッチ、テーピングなどの処置を選択して施していきます。もちろん痛みが強ければ運動そのものを中止する必要もあります。

ランナー膝(腸脛靱帯炎)
 

腸脛靭帯の部位と腸脛靭帯炎の好発箇所

赤い部分が腸脛靭帯で、
黒い部分が炎症が起きやすい箇所)

鵞足《がそく》炎

ランナー膝と同様に走る距離や時間の長いスポーツ選手に多い症状です。痛む場所は腸脛靱帯とは反対に膝の内側へ向かう筋肉(蓬工筋、薄筋、半腱様筋)の付着部で、使いすぎにより過度のストレスがかかり炎症を起こしていきます。

特に症状を起こしやすい原因として、硬い路面を堅いシューズで走ることが多い、踵の内側で着地したり踵の向きが外側に傾く傾向がある(X脚、回内足)、ももの裏側(ハムストリングス)の柔軟性に乏しい、などが挙げられます。

治療はハムストリングスの柔軟性の確保としてマッサージやストレッチ、また痛めた筋肉に沿っての伸縮テーピングや、脚のアライメント(軸、向き)を正していくためのテーピング或いはインソール(靴の中敷き)の装着などが有効です。運動前後のウォームアップやアイシングは万全に行い、走る際の環境を整える(硬い路面はなるべく避ける、柔らかいシューズにする)ことも必要です。

鵞足《がそく》炎
 

鵞足炎の好発部位
赤い部分)

大腿部、下腿部の肉ばなれ

膝関節内の障害ではありませんが、この項目内で述べておきます。

肉ばなれは大腿部では主にハムストリングス(ももの裏側)、下腿部では主に下腿三頭筋(ふくらはぎの部分)に発生します。

筋肉に急激に強い収縮や緊張が加わるスポーツ動作(全力疾走、ダッシュ、ジャンプなど)で起こりやすくなります。又、それ以前の状況として筋肉の柔軟性の欠如や、ウォームアップ不足、筋力の左右差の違い過ぎ、疲労の蓄積などが素因として考えられます。

受傷直後は圧痛や運動痛が強く、腫れや内出血もはっきり現れますので、すぐにRICE処置を施し、包帯固定・松葉杖歩行などで安静を保ちます。この時期はアイシング中心の治療となり、温熱療法やマッサージ、ストレッチを始める際は、腫れや内出血の減り具合や痛みの状況に応じて慎重に判断します。但し、逆に固定期間があまり長すぎても筋力が落ちたり、硬くなったりしますので注意が必要です。

スポーツに復帰する際は、まず痛みの出ない範囲で行う事と、反対側の脚と柔軟性が同じくらいのレベルに戻っている事が条件です。再発を起こしやすいケガですので日頃から筋力や持久力、柔軟性が向上するように努め、予防することが大事です。